総院長 松本正洋
インプラントのリスクに関しては、どんな年齢の患者の皆様にとってもすごく心配で、安全性が大変気になることだと思います。
私は歯科でインプラント治療を30年してきました。私の思うインプラントのリスクをご説明いたします。
何と言っても一番大きいリスクは、手術中に神経や血管を傷つけることです。
その他にも何層もリスクがいくつかあり、
総合的には【手術前のリスク】【手術中のリスク】【手術後のリスク】の3つに分類できます。
一番恐い手術中のリスクからご説明します。
手術中のリスクが、患者さんにとっても歯科医にとっても最も心配で不安な事です。
インプラントの手術は、ドリルで骨に穴をあけるわけですが、その際にあやまって骨の神経や血管を傷つけてしまう可能性があります。
特に、下あごは大きな神経や血管があります。もし神経を傷つけてしまうと、神経麻痺がおこってしまい、唇やほっぺたの感覚がにぶったり痺れてしまいます。
血管を傷つける場合は深刻で、実際に東京都内のクリニックで出血多量による死亡事故も起こっています。
上あごの場合は、上顎洞という空洞が頭蓋骨にありますが、その上顎洞をドリルで削ってしまって腫れや炎症をおこしてしまうという失敗ケースもあります。
下顎の神経、血管を傷つけない為に、必ず歯科用CT撮影を行って診断し、神経や血管の立体的な位置を把握して安全な位置に埋入する。
歯科用CTで神経、血管の位置を正確に把握します。
《出典》インプラントのためのCT画像診断
より安全な手術のために、サージカルガイドを使います。サージカルガイドは、CTの検査データをもとに作成され、ドリルのガイド機能があります。
ドリルの方向や長さをガイドしてもらって、事故を避けるとともに、埋め込む位置を決める。
上顎の場合は、上顎洞という空洞が頭蓋骨にありますが、その上顎洞をあやまってドリルで削ってしまって炎症をおこしてしまうという失敗ケースもあります。
▲青で囲ったところが上顎洞
▲上顎洞にインプラントを突き出してしまった症例
下あごの時と同様に、必ず歯科用CT撮影を行い、上顎洞の立体的な位置を確認して埋入位置を検討し、安全な位置に埋入します。
また、手術の際にも、もしドリルの先が上顎洞に触れてしまっても、経験のある歯科医師ならそこでドリルの感触の違いに気づきますので上顎洞をドリルが突き抜けることはなく、痛みがないように安全に手術することが出来ます。
ドリルで骨を削る時に、ドリルや骨が熱を持たない様に、注水をするわけですが、注水が不足すると、骨の細胞が熱によって死んでしまいます。
注水は確実に、ドリルの先端の、骨と接触してる部分に行うことを徹底することで防げます。
◎日本歯科医学会の調査で判明しましたが、インプラントをしている歯科医の4人に1人が、手術後に患者さんの神経麻痺などの重篤な後遺症を経験してるということがわかりました。
最近の2年間で、インプラントの手術後の後遺症で大学病院を受診した人は2700人以上いて、その原因が歯科医の技術不足であると指摘した大学が86%にものぼりました。
インプラントはどこの医院でやっても同じではありません。経験と常に勉強をしている歯科医のところで行わないといけません。
歯科医の技術の差は深刻で、設備が不十分にも関わらず利益をあげたいから、みるからに技術的には未熟にもかかわらずインプラントを行っている歯科医は多いので、事故件数が減少しているとはいえません。訴訟になり、判例が出るケースもございます。
そのため、後悔しないように安全なインプラント治療を受けるには、患者さんも口コミ以上のしっかりとした知識や情報(デメリット、欠点も含む)をみずからつけて、自分を守ることが必要です。
インプラントの手術が無事終わってもまだリスクはあります。
インプラントが、骨と結合(オッセオインテグレーション)する確率は、当院では、上顎では98%、下顎では99%以上です。
骨と結合しない原因は、糖尿病、歯周病菌による感染、喫煙、骨密度の低さなどが考えられます。
もし、結合しなかった場合は、再手術を行います。再手術を行って結合しなかったことは一度もありません。万が一、結合しなかった場合は、費用は頂きません。
また、喫煙もインプラント成功率に大きく関係します。喫煙していると血液の流れが悪くなってしまい、手術後の骨の結合に支障をきたしたり、歯周病にかかりやすいという危険があります。患者様にはなるべく禁煙していただくことをお勧めしています。
インプラントが骨と結合するまでは、1〜4か月かかります。
その間に、固い食べ物にふれたり、大きな力がかかったり、ばい菌の感染などにより、引っ付かない事が実際にあります。
インプラントが骨に完全に固定されるまでの間は、インプラントに負荷がかからないようにする。(負荷をかけない期間のことを免荷期間といいます)
せっかくインプラントをしても、長持ちしないこともあります。だめになる最大の理由は歯周病です。
インプラント(人工歯根)が歯周病にならない為には、歯磨きの仕方を歯科医から十分に聞いて確実に行うことが重要です。
また、定期的なメンテナンスを受けて、インプラントはもちろん、他の天然の歯も歯周病や虫歯から守ることも重要です。寿命を長く長持ちさせるためにも歯科衛生士によるメンテナンス(歯のクリーニング・保険適用)をお受けください。
治療が終了したのに、うまく物が噛めず、お食事しづらいことがあります。
また、ネジが緩んで、上部構造(かぶせ物)が動いてしまったり、場合によっては、折れてしまうというトラブルもあります。
かぶせ物の形は非常に重要です。しっかりかめなければ治療をした意味がないです。かぶせ物の形に詳しい歯科医を選ばないといけません。
ネジは締め付ける時の力が弱いと緩みます。適切な力は、インプラントの種類によっても違いますが、確実に締めることで対処できます。
また、インプラント自体が折れてしまうこともありえますが、その原因は、インプラント体が細すぎたり、力がかかり過ぎたりすることです。
そうならないような、診療時に手術前の設計をしっかりできる歯科医を選べば大丈夫です。
手術をする前のリスクは、そもそも手術ができない方もおられますし、疾患により手術をする前にすごく注意しないといけない方もおられますので、順番にご説明します。
糖尿病の方は、インプラントと骨がひっつきにくくなります。その理由は、高血糖やインスリン不足の場合は骨を作る骨芽細胞の働きがにぶるからです。インプラントが骨としっかり結合しないと抜けやすくなってしまいます。また、骨とひっついた後も歯周病になりやすいという問題があります。
また、手術中も感染しやすかったり、傷が治りにくかったりすることもあり、注意が必要です。
基本的に、糖尿病の指標であるヘモグロビンA1cが下がってからインプラント手術を行います。
A1cの値は、できたら6.5以下になることが望ましいです。
骨粗しょう症の方は、注意して手術することが必要です。また手術の仕方もご説明します。
骨密度を上げる薬(BP製剤)を飲んでおられる方は、手術を受ける前に、その薬を3か月くらいはやめる必要があります。
もし、休薬せずに手術を行ったり、抜歯などの外科処置をすると、そこの部分の顎の骨が腐ることがありますので要注意です。
骨粗しょう症の方は、当然骨密度が低い状態ですので、手術の場合は対処が必要です。
☆骨粗しょう症の方はインプラントを埋め込んでから骨と結合するのに時間がかかりますので、通常よりも3割くらいはひっつく為の時間を取ります。
☆インプラントを埋め込む周囲だけの骨の密度を上げます。
やり方は、埋め込むインプラントの直径よりも大分小さい径のドリルで骨に穴を開けて、そこに埋め込むのですが、その際にインプラントに接している部分の骨密度が確実に上がります。
喫煙によって、血管が収縮して血流が悪くなり、血中の酸素や栄養分が少なくなります。
また、煙草の中の一酸化炭素が血液中のヘモグロビンと結合することによっても、血中の酸素が少なくなります。
酸素や栄養分が少なくなると、インプラントが骨に固定されるのを妨げてしまうだけでなく、インプラントの周りの歯ぐきの治りも悪くします。
さらに、治療が終わってからも喫煙によって、インプラントが歯周病になる確率が上がってしまいます。
禁煙していただくのが一番安心ですが、禁煙が無理な方は減らすことで手術が可能になります。
過去に狭心症や心筋梗塞の既往がある方は注意が必要です。
これらの方は血液の流れをよくするために、ワーファリンとか小児用バファリンなどの血液をサラサラにする薬を飲んでおられます。
手術中に出血が止まらなかったらいけませんので、主治医と相談の上で服薬を止められたら止めるに越したことはありません。
ただ、実際の現場では、そういったお薬を止めなくても、広い範囲ではないインプラントでは、適切な止血処置をすれば、止めなくても実際に止血できますので、主治医の先生に薬を止めるのが難しいと言われた場合などには、飲んでも大丈夫です。
最近では投薬中でも手術をする場合が世界的にも増えてきています。
高血圧の方は、手術中にさらに血圧が高い状態になっては困ります。手術の時は緊張もされますし、麻酔薬の中には血圧をあげる成分(エピネフリン)も入っています。
手術中に血圧が180を超えると手術は慎重に行い、もし190を超えると手術は一旦休憩して血圧が下がるのを待ちます。
手術中に出血がひどくなってもいけませんし、手術後に出血が起こってもいけません。 手術中は必ず生体モニターで監視します。
1. 血圧を下げるためには、患者さんの緊張をやわらげるための精神安定薬を服用して頂きます。セルシンとかデパスというお薬です。
2. また、笑気ガスという気体を鼻から吸って気分を落ち着かせる笑気麻酔をします。ガスを吸うのをやめれば、直ちに麻酔からさめます。
※笑気麻酔はクリニックによって対応していない医院もございます。事前にお問い合わせください。
3. どうしても心配な方は、麻酔科医に帯同してもらって点滴麻酔をすれば完璧です。
過去に脳梗塞をわずらっても、現在症状がなく主治医の下で普通に暮らしておられる方は、基本的に大丈夫です。
ただ、血液をさらさらにする薬を飲んでおられる方もおられます。
そんな方は、インプラント手術の際には、一時的に休薬するに越したことはありません。
ただ、最近は実際の現場では、適切な止血処置をするならば、休薬しなくてもいいと言われており、実際私共の医院でも休薬なしで手術をすることがあります。
主治医の先生とも相談しながら決めることになります。
インプラントのリスクに関するご質問・お悩みなど、
どんな小さなことでも丁寧にお答えしますので、お気軽にご相談くださいね。